「でも、あの女から、磯谷が今どうしているかということぐらいは、お前も聞いたろう。」
 笹村はその男が持っていたという銀煙管で莨をふかしながら聞いたが、お銀にしては、それは笹村の前に話すほどのことでもないらしかった。
「やはりぶらぶらしているっていう話ですがね。」
 お銀の目には、以前男のことを話す時見せたような耀きも熱情の影も見られなかった。
「お前の胸には、もうそんな火は消えてしまったんだろうか。」
 笹村はもう一度、その余燼を掻き廻して見たいような気がしていた。
「いつまでそんなことを思っているものですか。思っているくらいなら、こうしちゃいませんよ。それに一度でも逢っていれば、それを隠しているなんてことは、とても出来るもんじゃありませんよ。」
 妊娠ということが、日が経つにつれてだんだん確実になって来た。
「どうしてもあなたには子種があるんですね。だって、深山さんの妹さんがあなたの体を見て、そう言ったっていうじゃありませんか。」と、お銀は笹村の顔を見て笑った。
「でもいいわ。一人じゃ子供が可哀そうだから、三人くらいまではいいですよ。」
 笹村はそのころから、少しずつ金の融通が利くようになっていた。新しい本屋から、原稿を貰いに来る向きも一、二軒あったし、しまっておいた新聞の古も、いつとはなしに出て行った。それだけ暮しも初めほど手詰りでなくなった。笹村は下町の方から帰って来ると、きっと買いつけの翫具屋へ寄って、正一のために変った翫具を見つけた。
上尾に美容室を2店舗展開するカバーヘアーグループ



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