ゴシップや世間の噂で、すでにそれらの医師だちにも興味的に知られているらしい葉子は、入院最初の一日の間に、執刀者のK――博士にも甘えられるだけの親しみを感じていたが、庸三と一言二言話しているうちに用意ができて、間もなく手術台のうえに載せられた。庸三は血を見るのもいやだったし、寄って行くのに気が差して、わざと次ぎの部屋に立っていたが、すっかり支度のできた博士が、駄々ッ児の子供をでも見るような、頬笑みをたたえて手術台に寄って行くと、メスの冷たい閃光でも感じたらしい葉子は、にわかに居直ったような悪戯な調子で叫ぶのであった。
「K――さん痛くしちゃいやよ。」
 博士は蓬々と乱れた髪をしていたが、「よし、よし」とか何とか言って、いきなりメスをもって行った。
「ちょっと来て御覧なさい。」
 やがて博士は庸三を振り返って、率直に言った。
 見たくなかったけれど、庸三は手術台の裾の方へまわって行った。ふと目に着いたものは白蝋のような色をした彼女の肉体のある部分に、真紅に咲いたダリアの花のように、茶碗大に刳り取られたままに、鮮血のにじむ隙もない深い痍であった。綺麗といえばこの上ない綺麗な肉体であった。その瞬間葉子は眉を寄せて叫んだ。
「見ちゃいやよ。」
 もちろん庸三は一目見ただけで、そこを去ったのであったが、手術の後始末がすんで、葉子が病室へ搬びこまれてからも、長くは傍にいなかった。やがて不愉快な思いで彼は病院を辞した。そしてそれ以来二三日病院を見舞う気もしなかった。
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