九時頃に小野田が外から帰って来たとき、駭かされたお島の心は、まだ全く鎮らずにいた。人品や心の卑しげな川西に、いつでも誰にも動く女のように見られたのが可恥しく腹立しかった。
「へえ、私がそんな女に見えたんですかね。そんな事をしたら、あの物堅い父に私は何といわれるでしょう」
 お島は迹から附絡って来る川西の兇暴な力に反抗しつつ、工場の隅に、慄然とするような体を縮めながらそう言って拒んだ。
 髯の延びた長い顎の、目の落窪んだ川西の顔が、お島の目には狂気じみて見えた。
「可けません可けません、私は大事の体です。これから出世しなくちゃなりません。信用を墜しちゃ大変です」お島は片意地らしく脅しつけるように言って、筋張った彼の手をきびしく払退けた。
 劇しい争闘がしばらく続いた。
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