透明な水は咳の発作の鎮静剤なのだろう。市長は肩で息をしていたのが少し楽になったらしい。
 「詩人が書いた詩を、もしあいつ自身がどうこうしようというなら、わたしは何も言わない。あいつに権利のあることなのだから。しかし、何かの加減で風に吹き飛ばされたのなら……」
 「吹き飛ばされたのだとしたら?」
 少年が尋ねる。
 「それもまた面白い」
 市長がこともなげに答える。
 「ただしひとつだけ言っておく。それが誰であろうと、登場人物たちは今度こそ始めた物語をきちんと最後まで終わらせなければならない。もし、いささかなりとも中途半端なことで済ませるなら、この詩の一ページが無駄な死を死ぬことになる。それはわたしが許さない」
 野球帽の少年が市長の肩越しに僕を見て、軽く片目をつぶってみせる。
 「市長は僕たちを引き合わせてくれたんだ。感謝しなくちゃ、ね」
 その目が笑っている。
 僕の記憶は、そこで小さくブラック・アウトし……、しばらくして東口の駅前広場で復元する。
 電鉄会社が経営するデパートの屋上にある電気メーカーのネオン・サインが、夜の町に原色の光を撒き散らしている。さっきオサムが〈町さらい〉の老人のカメラの中で逆さ吊りのコオロギにされた時に見えていたデパートの広告塔。バス乗り場には二~三台の終バスが残っていて、排気ガスの匂いが甘い。僕が何故そこにいるのか、思い出せない。でも、その時僕の頭の中に、たて続けに浴びせられた音楽と詩が切迫したリズムとなって響いていたことは確かだ。
 「どんな気がする?」
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