仲の町の立花屋では、佐野のお大尽が不意に乗り込んで来たのに驚いた。亭主の長兵衛は留守であったが、女房のお藤がころげるように出て来て、すぐに二人を二階へ案内した。女中は兵庫屋へ報せに行った。
 二階には手炙火鉢が運ばれた。吸物椀や硯蓋のたぐいも運び出された。冬の西日が窓に明るいので女房は屏風を立て廻してくれた。次郎左衛門のうしろの床の間には、細い軸物の下に水仙の一輪挿しが据えてあった。二人は女房や女中の酌で酒を飲んでいた。
 そのうちに女房はこんなことを言った。
「八橋さんの花魁は、大尽がお越しになったのでさぞお喜びでござりましょう。そう申してはいかがですが、花魁もことしの暮れはちと手詰まりの御様子でしてね」
「可哀そうに……。たんと金がいるのかね」と、次郎左衛門が訊いた。
「さあ、どんなものでござりましょうか。わたくし共も詳しいことは存じませんが、なんでも浮橋さんからそんな話がござりました」

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