名代の塩煎餅ですよ。金助町にいる時分、私よくこれを買いに行ったものなんです。」
 お銀は白い胸を披けながら、張り詰めた乳房を啣ませると、子供の顔から涙を拭き取って、にっこり笑って見せた。
「私途中で、岡田さんの奥さんに逢ったんですよ。しばらく来ないから、どうしたのかと思ったら、あの方たちも世帯が張りきれなくなって、二、三日前に夫婦で下宿へ転げちゃったんですって……。」
 お銀は塩煎餅を壊しながら、そんな話をしはじめるのであった。
 笹村の当て推量は、その時はそれで消えてしまうのであったが、外出をするお銀の体には、やはり暗いものが絡わっているように思えてならなかった。
「三度目に、こんな責任を背負わされるなんて、僕こそ貧乏籤を引いてるんだ。」笹村は揶揄い半分に言い出した。
「三度目だって、可愛そうに……片づいていたのは真の四ヵ月ばかりで、それも厭で逃げたくらいなんだし、磯谷とは三年越しの関係ですけれど、先は学生だし、私は叔父の側にいるしするもんだから、養子になるという約束ばかりで、そうたびたび逢ってやしませんわ。」笹村の口から磯谷のことをいろいろに聞かれるのは、お銀にも悪い気持はしなかったが、その話も二人にとって、次第に初めほどの興味がなくなってしまった。お銀と磯谷との関係と磯谷の人物とがはっきり解って来れば来るほど、笹村の女に対する好奇心は薄らいで来たが、お銀の胸にもその時々の淡々しい夢はだんだん色が剥げて来た。
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