お銀は餅々したその腿のあたりを撫でながら、ばさばさした襁褓を配ってやった。子供は吹き込む風に、心持よさそうに手足をばちゃばちゃさしていた。
 夕方飯がすんでから、笹村はM先生のもとを訪ねた。先生は涼しい階下の離房の方へ床をのべて臥ていた。そのころ先生の腫物は大分痛みだしていた。面変りしたような顔にも苦悶の迹が見えて、話しているうちに、時々意識がぼんやりして来るようなことがあった。起き直るのも大儀そうであった。
 笹村は下宿の不自由で、仕事をするに都合の悪いこと、そこを引き払いたいということなどを話して、それとなく金を要求した。
「なにか用だったか。」
 先生はまるで見当違いの挨拶をした。口の利き方もいつものような明晰を欠いていた。病勢のおそろしく増進して来た先生の内部には、生きようとする苦しい努力、はかない悶えがあった。日ごとに反抗の力の弱って行く先生は、笹村の苦しい事情に耳を傾けるどころではなかった。
川口 訪問歯科



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