お役者の一人である。こっちは唯の百姓である。その百姓に対して、彼は一目も二目も置いたような卑下した態度を取っている。どっちからいっても、よくよくおとなしい可愛い男だと次郎左衛門は思った。
 治六にいくら注意されても、彼はこのおとなしい若い浪人者に対して、いわゆる色がたきの恋争いのという強い反抗心をもち得なかった。彼は恋のかたきというよりも、むしろ一種の親しみやすい友達として栄之丞を取扱いたかった。
 しかしその親しみやすいといううちには、おのずからなる軽蔑の意味も含まれていた。次郎左衛門が彼に対して反抗心や競争心をもち得ないのは、相手を余りに見くびっていた結果でもあった。次郎左衛門は芝居や講談で伝えられているような醜いあばた[#「あばた」に傍点]面の持ち主ではなかった。三十一の男盛りで身の丈は五尺六、七寸もあろう。剣術と柔術とで多年鍛えあげた大きいからだの肉は引き締まって、あさ黒い顔に濃い眉を一文字に引いていた。彼は実に男らしい顔と男らしい体格とをもっていた。たしかに一人前の男として、大手を振って歩けるだけの資格をそなえていた。金も持っていた。力も持っていた。
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