お銀はそのころまだ長火鉢の抽斗にしまってあった丸薬を取り出して、時々笹村に見せた。
「あの時のことを思うと、情ないような気がする。」
 お銀は目を曇ませながら、傍に遊んでいる子供の顔を眺めた。
「坊は阿母さんが助けてあげたんだよ。大きくなったら、また阿母さんがよく話して聞かしてあげるからね。」
 お銀は笹村を厭がらせるような調子で言った。
「あの時のことを忘れないために、この丸薬はいつまでもこうやってしまっておきましょうね。」
「莫迦。」笹村は苦笑した。
 お銀は胎児のために乳を褫われようとして、日に日に気のいじけて来る子供のうるささを、少しずつ感じて来た。そして老人の手に懐けさせようとしたが、子供は母親よりもしなやかでない老人の手を嫌った。夜笹村の部屋で寝ようとするお銀の懐へ絡りついて来る子供は、時々老人の側へ持って行かれたが、やはり駄目であった。子供に対して細かしい理解のない老人の手に扱われて泣いている子供の声は、傍に見ている笹村の頭脳に針を刺すように響いた。
「お前見たらいいじゃないか。」
 笹村はお銀に顔を顰めたが、長いあいだ襁褓の始末などについて、母親に委しきりにして来たお銀は、そんなことには鈍かった。お銀の体のきまりのつく前と後では、子供に対する父と母の心持は、まるで反対であった。

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